訪問看護は創意工夫
今更ですが、あけましておめでとうございます。
我が家は12月中旬から次々とインフルエンザに襲われていました。
まず、子供たちが学校から持ち帰り、滅多に感染しない夫が倒れ…。
夫に「気を抜いているからよ。」なんて嫌味を言っていたのですが、お正月が終わり、ほっとしたとたんに私にものどの痛みと悪寒がやってきました。
結局お正月明け2日ほどお休みをいただき、利用者さんにもご迷惑をかけてしまいました。
私が働くステーションはサポート体制が万全なので、安心して休むことができましたけれどね。
訪問看護はマニュアル通りにはいかない。創意工夫が大切
昨年、ステーションに新しい仲間がやってきました。
ずっと病院勤務だった方で、訪問看護ははじめてです。
とはいえベテランさんなので、私たちからみると、何の問題もなくあっという間に訪問看護の世界に溶け込んだように思っていました。
つい先日、その方とゆっくり話す機会がありました。
「訪問って、マニュアル通りにはいきませんね。」
その言葉を聞いて、私も以前同じことを感じたのを思い出しました。
訪問看護師になったばかりの私も「自分は思ったよりも融通が利かないんだな。」と情けない気持ちになっていたのです。
訪問看護では、物品が不足していることも多い
病院勤務時代の私はコスト意識がまるでありませんでした。
針もガーゼも請求すればすぐに補充されるものだったからです。
その後クリニック勤務になり、材料にはお金がかかること、節約しなければ自身の給料にも響いてくることなどを実感したのです。
それでも、『必要なものは補充される』ことに変わりはありませんでした。
ところが、利用者さんのお宅にはないものがたくさんありました。
気切している利用者さんでも、「ガーゼは高いから。」という理由で滅菌ガーゼがありません。
吸引チューブをS字フックに引っ掛けて乾燥させていたり、酒精綿は1枚をさらに裂いて2回分にしていたり…。
当時の私は、「あれもない、これもない。」といつもあたふたしていたように思います。
そんなとき、管理者から「在宅は創意工夫」と言われてはっとしました。
高齢者の多い在宅では、裕福なご家庭ばかりではありません。
節約しながら細々と介護を続けていらっしゃる方も多いのです。
また、いつまで続くか分からない介護を継続させるには、無駄を省いて物を大切にしなければなりません。
本当に必要か、あるもので代用できないかを考える
このことに気づいてからは『教科書通りの物品が揃っていなければケアできない』自身を反省し、本当に必要なものを利用者さんと一緒に考えるようになりました。
特に介護を始めたばかりのご家庭は、あれもこれも購入しようとします。
物が揃わないと不安だった以前の私のように。
今ではまず、”すぐ”に、”絶対”に必要なものだけを準備していただき、介護生活が始まってからほかに必要なものは何か、ゆっくり考えるようにしています。
代用できるものはご自宅にあるもので代用します。
例えば点滴台はコートハンガーでも良いし、滅菌ガーゼでなくても良いなら安いガーゼを購入して利用者さんやご家族と一緒に切って使います。
場合によってはキッチンペーパーやテッシュペーパーだって良いのです。
本当に訪問看護は創意工夫ですね。
より個別性を重視したケアを考えよう
それからもうひとつ。
在宅では利用者さんと深く関わるため、より個別性に目を向けることができます。
看護師は、学生時代から個別性、個別性としつこいくらいに指導されますよね。
学生時代の私はそれが良く分からなくて苦労しました。
看護師になって何となく分かったように思っていましたが、忙しさを理由に看護に生かすことはあまりできていませんでした。
訪問看護を始めて、難病の利用者さんに関わることが増えました。
病院に勤務していると、難病の方と関わることって実は少ないんですよね。
難病の方は状態が悪くなったときか、レスパイトでしか入院することがありませんから。
ごく短期間のお付き合いしかなかったのです。
難病の方は普段はこうして生活しているんだって、訪問看護師になってはじめて知ることが多かったです。
難病の利用者さんへのケア、これで良いのか悩む
すでにベテラン(年齢だけ)の私でしたが、知識は教科書レベル。
そんな中で担当した方は、ALSですでに眼球しか動かない状態でしたが、1人暮らしを続けていて趣味も多く、積極的に外出していました。
訪問回数が多い方でしたから、毎日のようにお会いして、それなりに良い関係を築けているつもりでした。
でも、表情や言葉から読み取ることができないからこそ、私のケアに満足してくださっているのか、どうしても気になってしまうのです。
難病の方のブログからヒントを得た
その方のことをもっと知りたくて色々な資料を読み漁りました。
しかし、どれも『教科書レベル』の情報で、参考にはなりません。
煮詰まっていたところ、見つけたのがALSの方が書かれていたブログです。
ブログでは、往診医やヘルパー、そして訪問看護師に対する感謝の気持ちが綴られていました。
表情を変えることができないので、笑顔で感謝を伝えられず申し訳ないとも。
ブログを読んでいて、表情や言葉から真意を読み取れなくて不安な私と同じように、彼らも表情や言葉で伝えることができず歯がゆい思いをしているんだ、と気づきました。
さらにほかのブログでは、切実な希望が書かれているものもありました。
ALS以外にも難病で気管切開をしている利用者さんは多くいらっしゃいます。
気管切開をしている方にとって『痰の吸引』は命にかかわる重要な処置です。
ご家族や訪問看護師、頻回な吸引が必要な場合はヘルパーのサポートも受けながら生活されています。
そして、吸引を行うスタッフは皆、手技の指導を受けています。
吸引チューブのサイズの選び方、何cm挿入すれば良いのか、吸引の圧、吸引時間…。
事故を防止するためにも、繰り返し練習して頭に叩き込んでいます。
ところがブログでは、痰が溜まった際の苦しみを詳細に記したうえで、あと少し、しっかり吸引してほしいと綴られていました。
吸引は気道分泌物だけでなく、気道内の空気も吸引してしまうので、吸引される側の負担は大きいものです。
私はこれまで、痰が残っているからといって連続して吸引しないよう注意を払ってきました。
でもよく考えてみると、その吸引時間は教科書で示されたものです。
30秒などの大きな差はないでしょうが、「呼吸を止められる時間」には個人差があるはずですよね。
そこに病状の進行度合いも影響を及ぼすでしょうし…。
この1秒、2秒が個別性なのかな、と思い、以後は利用者さんと相談することにしました。
すると、利用者さんによってちょっとした違いのあることが分かりました。
ごくごくわずかの差なのですが、どうしたら排痰しやすいか、1回の吸引時間はどのくらいが効果的かを私自身もよく考えるようになりました。
ちなみに、私はスポーツが苦手で体力もありません。
なので、吸引を実施する際は私も呼吸を止めるようにしています。
SPO2をモニタリングしつつ、個人差を考慮し、自分の苦しさはどうかも参考にしています。
(痰が貯留しても苦しくない、反応のない利用者さんに対しては余裕を持った吸引を行っています)
吸引を例にお話ししましたが、皮膚感覚が過敏な方にはお湯の温度やタオルの素材の好みを確認したり、外出のメイクはどんなイメージでしたいか、雑誌の切り抜きを持参したりして工夫しています。
こんなかかわりを心掛けるようになって、話せない利用者さんとのコミュニケーションもスムーズになってきたように思います。
知れば知るほど訪問看護は面白い
私は訪問看護を始めて10年未満です。
年齢はベテラン(おばさん?)ですが、訪問看護の世界ではまだまだ新米です。
分からないことが多いからこそ調べて、考えて、悩んでいます。
自分が動くことでケアが展開していく訪問看護は、責任は重大ですがとても面白いです。
利用者さんやご家族に助けられたり、教えられたりすることもたくさんあります。
自身の理念にマッチしたステーションに就職すれば楽しく働けるのが訪問看護ではないかと思います。
訪問看護師に興味のある方はぜひ、ステーションの考え方を確認して、同行訪問をしてからじっくり選んで欲しいです。