日々、訪問看護

40代訪問看護師(非常勤)です。仕事のことを中心につらつらと書いています。

人生会議のポスターの件で、ACPの認知度があがれば嬉しい

少し前に『人生会議』の啓発ポスターが物議を醸していましたね。

厚生労働省に抗議文が届いたとか。

がん患者やその家族の不安を煽ってしまうという意見もあったようです。

確かに、死を連想させる文言や心停止を表しているであろう心電図波形は刺激的すぎかもしれません。

 

ACPは終末期以外にも活用しよう!話し合いのプロセスを看護に生かす

私はポスターのことがニュースになるまで、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の愛称が人生会議であることを知りませんでした。

勉強不足ですね…。

あえて日本語の愛称を決めたのは、日本人には日本語のほうがなじみやすいからということなのでしょうか。

 

ACPについて少しだけ学んだことのある私には、『人生会議』という愛称の方に違和感がありました。

『ACP』が『人生会議』というほど大げさなものではないと考えていたからです。

 

 

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)って何?

欧米から広まったACP。

厚生労働省の調査によると、日本ではACPを知っているという人はわずか3%ほどです。

医療従事者(医師、看護師)ですら約20%ですから、日本における認知度はまだまだ低いのです。 

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000200749.pdf#search=%27%E4%BA%BA%E7%94%9F%E3%81%AE%E6%9C%80%E7%B5%82%E6%AE%B5%E9%9A%8E%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%8C%BB%E7%99%82%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%84%8F%E8%AD%98%E8%AA%BF%E6%9F%BB%27

厚生労働省 人生の最終段階における医療に関する意識調査 2018年)

 

ACPはあらかじめ話し合うプロセスのこと 

advanceが「前もって、あらかじめ」などを意味することから分かるように、ACPは直訳すると「あらかじめケアの計画をたてること」となります。

ACPの定義は国によってさまざまですが、どの国においても治療、ケアの選択や、個人の希望、価値観、信念などを大切な人・医療者とあらかじめ話し合うプロセスを指していることは共通しています。

 

高齢多死社会の日本ではACPの重要性が増している

日本でACPの重要性が認識されるようになってきた理由はやはり、日本が超高齢化社会に直面しているからでしょう。

2025年には団塊の世代が75歳以上になり、さらに2040年には団塊ジュニア世代が65歳に到達します。 

 

本人の意思決定が重要

私たち訪問看護師も大きく関わっている『地域包括ケアシステム』は、こうした高齢者に対する医療や介護の需要増加に備えて打ち出された対策です。

「できるだけ住み慣れた地域で過ごそう」という地域包括ケアシステム推進のために、地域全体での取り組みが求められています。

 

地域でサポートするには、本人の意思決定が重要です。

どこまで治療するか。

最期をどこで迎えたいか。

何より、どう生きたいか。

団塊ジュニア世代の私にとっても、他人事ではありません。

 

日本もACPの普及に乗り出した

厚生労働省は2007年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定しました。

人生の最終段階の医療の在り方について、患者本人の決定を基本とし、医療従事者等のチーム全体で慎重に判断すること、などが盛り込まれています。

 

一昔前は「患者中心の医療」などと言いつつ、治療方針は医師の判断によるところが多かったと思います。

悪い言い方をすれば、説明はされるけれど、患者さんに選ぶ余地はないというか。

患者さんが真ん中にいて、医療者が周囲を取り囲んでいるというイメージでした。

それが現在は、患者さんもチームの一員であるという考え方に変化しています。

患者さんと医療者が手をつないで一列に並んでいるイメージでしょうか。

ガイドラインにもあるように、患者さん本人の意思決定を尊重しながら、ご家族や医療者とともに話し合って方針を決めていこうというのです。 

 

ACPは介護現場でも活用したい

先のガイドラインには、策定当初「医療の決定プロセスに関する」という文言しかありませんでした。

それが2018年3月に改訂され、「医療・ケアの決定に関する」と名称が変更されました。

この改定で注目すべき変更点は、医療・ケアチームの中に介護従事者を含むことを明確化し、在宅医療や介護の現場でもガイドラインを活用できるようにしたことです。

最期まで自宅で過ごす人が増えることを見越して、介護の現場でのACP普及を目指しているのだと思います。

確かに、高齢多死社会の日本では今後、介護現場でもACPアプローチが必要になってくるのは間違いないでしょう。

  

ACPアプローチの対象は、死期が近づいた方だけではない

ガイドラインに「人生の最終段階における」とあるように、日本においてACPは終末期の方に行うものという印象があるのではないでしょうか。

個人的な意見ですが、例のポスターもガイドラインにのっとったものと考えればそう的外れでもないのかなと思います。

ガイドラインで「人生の最終段階における」と言っているのですから、死に直面し、話し合いを持たなかったことを後悔している場面を切り取ったのは、分かりやすい表現であるとも考えられます。

 

早期から話し合うことの大切さ

日本ではACPを主に終末期にある人へ活用しようとしていますが、米国ではファシリテーターを育成し、健康な段階の人もACPアプローチの対象としています。

健康なうちから将来に向けて話し合うことが必要だという考えですね。

 

ですから私は、例えば家族内で1年に1度は人間ドッグを受けようと決めることや、かかりつけ医で日常生活の注意点を話し合うことなどもACPの一部と言って良いのではないかと理解しています。

私は風邪をひくと咳が長引いて喘息の症状が出るのですが、つい先日インフルエンザに罹患した際、主治医に

「喘息が出たらどうしたら良いですか。」

と尋ねました。

すると主治医からはまず服薬と吸入をして、それでも落ち着かなければ受診するよう指示がありました。

案の定咳がひどくなりましたが、早期に指示の通りの処置を行ったことで悪化せずに済みました。

「もしもの時の話し合い」ですから、これもACPではないでしょうか。

 

ACPは”話し合うプロセス” こそがポイント

 ACPのポイントは話し合って得られた結果ではなく、話し合いのプロセスがポイントです。

話し合いの内容は必ず記録を残し、チームで共有しましょう。

記録を残すことで、その方考えや気持ちの変化が分かるはずです。

出会ったとき、すでに終末期の利用者さんに対しては時間が足りないかもしれませんが、それでも在宅は病院に比べて、おひとりの方にじっくり関わる時間があります。

慢性期の方ならば、話し合う機会はたくさんあります。 

話し合いを重ねて、誰もが少しでも悔いのない人生を過ごせたら嬉しいですね。